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ヤーブロウ
矢作俊彦
山崎豊子
山手樹一郎
山本周五郎
結城昌治




吉岡忍
吉川英治
吉村昭




スティーブ・ヤーブロウSteveYarbrough
『酸素男』
『酸素男』
TheOxygenMan
訳:松下祥子
ハヤカワ文庫
平成22年2月27日読了
 描写がシッカリとしていて読み応えが有ります。行間と言うか描かれていないシーンも観えるようで、自分が物語の中に居るような、それ以上に 物語の空気にねっとりと包まれているような緊張感が有ります。サラサラと筋を追うような走り読みには向いていませんし、許されない文章だと思います。
 ただ作品としてはかなりシンドイ。
 今とは違う自分になりたいとはガキの頃には誰でも思うコトなのでしょうが、そういう思いを持ちつつ、自分にふさわしく感じられない場所でもがく 高校時代のエピソードは痛々しいほどです。そしてその時のボタンの掛け違い、または別れ道での誤った選択が未だに膿を出し続ける傷のようにジグジグと 痛み続ける現在もまた辛い。
 この二つの時代のエピソードが交互に描かれ最後に全体の構図が見えてくる…という仕組みもですが、なにより作品そのものの力で惹きつけられ、辛い 話なのに目が離せません。
 一つだけ不満を言うと訳者はアメフトに疎いか、少なくとも好きではないのではないかしらん?読んでいて判り辛かったので。
 このまま映画にしても面白いんじゃないでしょうか?監督はショーン・ペンで(そういえば『インディアン・ランナー』もきつかったなぁ)。
矢作俊彦
『舵をとり風上に向く者』
『複雑な彼女と単純な場所』
『舵をとり風上に向く者』
新潮文庫
平成22年12月29日読了
 敢えてこんなことを言うのもどうかと思いますが、説明過剰ではないのが良い。
 例えば表題作のラストで主人公が感じる不愉快はナニに向けられたものか?また「一瞬の幸福」の怒り、「ON THE COME」の賭けたものとその対価…と 自分の中にゴロリとした読後感が残ります。何年かおきに読むとその度に解釈が変わるんだろうなぁ。
 どれもギリギリにぴんと緊張して見栄を張っている先輩、と言う感じで少し離れて憧れて観てしまいますね。僕自身は関川夏央の年の離れた弟と言う 気分なんですが。
 ちなみに「銀幕に敬礼」の主人公を石原裕次郎をイメージしたと某サイトのカスタマー・レビューに書いている方がいらっしゃいましたが、 いやいやエースのジョーだろう?と思うんですけどね。まぁ僕自身、日活アクションをロクに観ていないので見当違いかも知れないですし、全体として こんな推測自体が野暮な話ですが。
 蛇足:明らかに勘違いしている全共闘世代の解説は蛇足と言うよりも玉に瑕で、本を痛めるのを恐れなければ剥ぎ取りたいくらい。不惑を過ぎて依然 “世界同時革命”の寝言を唱えるのも結構ですが、果たして以来20年を経て少しは世間を良く出来たのかよ??と。
『複雑な彼女と単純な場所』
新潮文庫
平成20年1月12日読了
 ヨコハマには以前から憧れが有った(ベイスターズのファンになったのは無関係)のですが、 所詮ヒトは生まれ故郷の殻を尻に付けて生きているのだなぁと感じています。毎年ハマスタに 出掛けるのですが帰途が長い所為でも無いのでしょうけど、球場外に一歩でも出ると余所者 としての気分が抜けません。
 で、本書なのですが違った意味で僕との共通点のようなモノを感じなくも有りませんでした。
 著者は横浜市中区の出身で僕はソレに憧れる“千葉の百姓”なのですが、未だに暮している 故郷が我が物顔の他所からの流入者に浸食されているという寂しさというか苛立ちというか、 一言では言い表せない感情が有る点は同じではないかと。
 統一されたテーマで書かれたのではなく、幾つかの雑誌などに掲載されたモノを集めた エッセイ集ですが総じて雰囲気は同じかなぁと。相当口が悪いのですがソレに釣られては イカンのだなと。
山崎豊子
『女の勲章』
『沈まぬ太陽』
『女系家族』
『白い巨塔』
『女の勲章』
新潮文庫
平成19年4月16日読了
 期待していた展開と違ったのはコチラの勝手としても、全体的に期待していた程ではなかった。
 個々の登場人物に関して言えば書き込み不足のモノあり、“お約束”のままのモノあり、で生き生きと していない。また服飾業界についてや海外の描写についても勉強し過ぎで、ソレが生地のママ出ているのが 上滑りさせている。
 諸般の事情からそう簡単には行かないと言うコトは判るが、もっと自分の中で熟成させてから書いた方が 良かったんじゃないかしらん?と残念。
『沈まぬ太陽』全5冊
新潮文庫
平成20年6月6日読了
 酷い出来でビックリしました、これが売れただけでなく評価も高いなんて信じられないなぁ。
 まず文章に味が無く、読んでいて歯ごたえと言うか読後の充実感というか、そういうものがまるで無い。偏見の誹りを 覚悟で言うと新聞記者ならではの書き捨て文章で、とても文章表現を生業にしている人間の提供するレベルではない。
 話の展開もまたお粗末。「アフリカ編」では過去と現在を行ったり来たりするのですが、未整理なまま書いている気がします。 読んでいてこんがらがるもの。結局文章に惹き付けられるモノが無いのでコチラの集中力が散漫になっているんでしょうけど。
 続く「御巣鷹山編」では事故の緊迫感などは一切無く、ただ取材して得たものを垂れ流しているだけでした。感動した方も 多いと聞きますが、ソレってこの小説にではなく引用された資料に対してなんじゃないか知らん?トドメの「会長室編」に至っては 人間関係などがグチャグチャ。とにかく思い付きで書き散らかしています(そうとしか思えない)。
 そして全ての話に説得力が無い。
 作者本人の言によると「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説に 再構成したものである」んだそうな。
 それにしちゃあ、お粗末に過ぎなくないか?
 一所懸命に勉強し資料も相当集めたのでしょうが、まるで未消化のまま垂れ流している感じです。読んでいて体温が無いんですよね、 まるで借り物。覚えたての単語が上滑りしています。アーサー・ヘイリーの凄さが判りました。それだけは収穫。
 とにかく大分なページの割りに薄っぺらな作品で、『白い巨塔』よりも更に酷い出来でした。もう船場モノ以外は読まない方が 懸命ですね、少なくとも僕は。
【余談】
 ネットで検索して知ったのですが、前述の通り本作は「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、 各機関・組織なども事実に基づき、小説に再構成したものである」と作者がわざわざ断っているが為に批判され論争も有ったそうな。 曰く“事実に基づき”と言いつつ経歴からソレと判るモデルが登場人物とはまるで異なる、曰く取材は一方的で他方の意見には 最初から耳を貸していない等々。「日航側が取材を拒否した」と言いますが、先入観でガチガチの相手なら避けたくもなるわなぁ。
 作中での主人公は純粋に英雄でありその仲間は善意と誠意の塊であると描きつつ、対立する会社側の人間は爬虫類だのナンのと 軽蔑すべき完全なる悪党(作者の好きな表現で言うと魑魅魍魎)として描写されているのですが、なるほどココまで悪し様に言われて 挙句にコレが事実であるなんて言われてはモデルとされた方はタマランよなぁ。
 更に他の人はこの辺りどう思っているのかと興味が湧いたので、再びネットで感想を探してアレコレ読んだのですが、ノン フィクションとして読んでいる方が結構いらっしゃいます。
 また「作者がナンと言おうと所詮は小説であり、つまりフィクションである」と判った上で感想を書いている方もおられますが、 そういう方ですら物語の舞台である国民航空を日本航空だと書いています。
つまりフィクションであると言いつつ実在の日本航空として読んでいるのであって、結局は作者の思う壺にハマっているのでは なかろうか?
 確かに未曾有の事故を起こし多数の人命を失わせた会社の責任は重いですし、遺族の悲しみはどれほど想像しても及ばないとは 思います。また昨今の遺品の取り扱いに関しての報道(遺族の意向を無視して勝手に焼却しようとしていた云々)も、酷い会社だと 思わせて余りあります。
 しかしソレとコレとは話が別では無いですかね。そういう会社に対してならばどんなコトを書いても良いのか、と疑問が残りました。
 航空会社に人間愛を求めるのも結構ですが、自分はどうなんでしょうか?
【関連作品】
吉岡忍『墜落の夏』コッチを読めば充分…かも。
『女系家族』
新潮文庫
平成19年5月16日読了
最初に注意。文庫裏の粗筋紹介ですが、下巻のソレで結末を書いてしまっています。事前にこの部分を読まないコトを お薦めします
 大阪船場を舞台に老舗の遺産相続争いを描いた作品なのですが、とにかくドイツもコイツもえげつなくて良かった。 しかもソレが妙にリアルで自分が当事者でも似たような行動に出ただろうと納得せざるを得ない説得力でした。
 もちろんドロドロとした人間関係も出て来ますが、むしろ面白いのは大阪の風俗で外国文学を読むのに似た 楽しさでした。セリフだけでなく地の文にも混ざる大阪の言葉遣いは心地良い。着物や料理について書かれていることは 半分以上理解出来ていないとは思いますが、それでも雰囲気は充分に伝わって来ました。この辺りに気合を入れたら かなり見応えのある映像作品が出来るのではないか知らん?
 ただ注文をつけるとしたらラストの仕掛けの見せ方をもう一工夫して欲しかったように思います。下品なサービスに 走る必要は有りませんが、もう少し劇的でも良かったかと。例えば上質の推理小説のように。
『白い巨塔』(全5巻)
※発表当時は『白い巨塔』が1〜3巻であり、
4・5巻は『続・白い巨塔』にあたる。

新潮文庫
平成20年2月17日読了
 正直一言で言って「そりゃ無ぇだろう?」と言う作品。
 母親が以前に某国立大学の教授選挙がいかにエゲツナイかを見ていたそうで、その話は少しだけ聞いていました。 ま、小説だから誇張しているとは言えやはりドコでも酷いモノだなと読んだのですが、面白いのはソコまででした。
※以下本意では有りませんが粗筋を紹介しつつの感想です。
 これから読もうと思っていらっしゃる方は読まないコトをお薦めします。

【教授選挙編】
 面白いのは正直ココだけ。
 天才的な外科手術の腕前を誇り次期教授を目指す財前助教授と、退官後にも影響力を維持したいが為に財前外しを画策する 東教授の二人が中心となって泥仕合を展開します。細かい紹介は避けますが、浪速大学OB会や地元大阪の医師会をバックに ゼニで攻める財前側と、東都大学閥を利用して中央とのコネ(権力)で攻める東側と正直ドッチにもウンザリさせられます。
 ウンザリしつつ面白く読むんですけどね。
 僕自身は関東の人間ですが奇麗事を言ってうわべを取り繕うとする東側に、よりウンザリさせられました。財前が勝って ホッとしましたよ。
【国際会議出席編】
 ココから一気にしらけます。
 どうして舞台が海外になると急に小学生の作文のようになるんだろう?一々アソコでナニしたココでカニした…なんて 読者としては鬱陶しいだけなのに、妙に細かいんですよね。まるで「観光旅行ではありません、取材です」と税務署に向けて 書いているようで退屈です。
【医療裁判編】
 ドイツから帰国した財前を待っていたのは誤診裁判だった…というのですが、原告側の言いがかりに思えなくも有りません。 手術のしっ放しで様子を見ようともせず、更に容態が急変しても放置され挙句に死なされたら、そりゃぁ訴えるでしょうが、 でもなんかなぁ。
 作者のご都合主義も甚だしく有能かつ実力者である筈の財前側弁護団が無能の極みで、良くこんなので被告側が勝てたよなぁと 呆れました。
【医療裁判控訴審+学術会員選挙編】
 ココからが蛇足です。
 小説家の社会的責任だかナンダカに目覚めて書いたのだそうですが、完全に無駄に思えます。
 登場人物たちが自分の薄っぺらな正義感で行動するのは良いとして、作者がソレに乗ってしまうのはイカガナモノカ?
 例えば最後の最後に今までの証言を覆して財前を裏切り「真実」を証言する研修医が居るのですが、コレって作者の言うように 止むに止まれぬ正義感から真実の叫びを上げたのではなく、単に責任を全て転嫁されそうなので保身の為に寝返ったに過ぎない。
 もちろん人間なんて弱い生き物で最後には告白したのだからマシだろうと言えば言えますが、作者のスタンスは違うんですよね。 なんかもっと冷たいというか。
 最後に面倒くさくなったかのように財前を殺してハイサヨウナラ♪じゃ、やりきれないなぁ。
【関連作品】
映画化作品 『白い巨塔』
山手樹一郎
『遠山の金さん』
『殿さま浪人』
『遠山の金さん』
春陽堂
平成23年9月25日読了
 遠山の金さんと言われると思い浮かぶのは「この桜吹雪が…」なんてアレですが、本書はそれ以前の金さんです。
 この選択が上手いよなぁと。
 言われてみれば若い頃はグレていただの噂ばかりで町奉行になっちゃってましたからね、果たしてなんで刺青なんかという あたりの事情が判らない。本書はそれ以前の“町人時代”です。なぜ旗本の次男坊金四郎青年が家を出たのかと言う家庭の事情、 また遊び人としてナニをしていたのか、なんでまた刺青を?などの絵解きをしてくれています。更に二十余話が推理小説の形式で 楽しいコト間違いなし。短編としての切れ味の良いですしね。
 加えて恋女房であるお玉ちゃんの存在も気になるところ。そこまでは描かれていないのですが果たして町奉行となった 金さんとの間はどうなっているのやら…続きが有ればぜひ!と思いますが、さてさて。
山手樹一郎長編時代小説全集78
殿さま浪人』
春陽堂文庫
平成24年2月2日読了
 ハリウッド映画で言えばモノクロの、「古き良き時代」の作品。登場人物は単純だが平板ではなく、物語もご都合主義かつハッピーエンドだが 退屈させない…と心地よく読める。語り口の見事さなどはまさに職人芸であろうし、特にラストシーンの切れ味は過去の作品と侮れまい。
 まさにプロなんでしょうなぁ。
 藤沢周平にも素晴らしい作品が多いが『檻』シリーズが本作などに似た味わいで、もう少し話題に上っても良いんじゃないかしらん?
山本周五郎
『日日平安』
『ひとごろし』
『酔いどれ次郎八』
『日日平安』
新潮文庫
平成22年4月3日読了
 表題作は黒澤明監督作品『椿三十郎』の原作なのですが、映画とは真逆の面白さです。違いを楽しむのも一興でしょう。 映画化とはこういうもんだ、と個人的には感動しています。
 再読して思ったのは、基本的にハッピーエンドだなというコトです。少なくとも運命や社会の理不尽さに身悶えする ような結末はありません。
 似たようなジャンルの藤沢作品と比べて意外性に乏しいとも言えますし、現実味に欠けるとも言えます。しかしその分 安心して読めるのも確かで、特に寝る前には適しています。この辺りは創作の動機や発表当時の読者層の違いが原因かしらんと。
 また藤沢作品との比較で言うと文章表現の違いにも興味深いものが有ります。例えば風景について言えば山周が絵画だと すれば藤沢は写真のイメージ。前者が表現にも技巧を凝らそうとするのに対し、後者は手を加えるのではなく如何に写し 取るかに心を砕いているように思われます。
 場面転換のタイミングや食べ物に対する書き込みの度合いから、なんとなく舞台劇と映画の匂いをそれぞれ感じるのですが、 コレって作者の世代なんかにもよるのかな?と。
 以上、感想から逸れてしまいましたが思うコトをつらつらと。今や藤沢周平に駆逐された観のある山本周五郎ですが、 もっと読まれて良いのになぁと思われます。捨てておくには惜しいですね、多少お説教臭いけど。
『ひとごろし』
新潮文庫
平成22年5月14日読了
 生前に作者が廃棄したいと語っていたという初期きの作品から、最晩年のモノまでアレコレ入った作品集ですが、そりゃそうだよねと 思わなくもなかったりしました。
 戦中という時代の圧力が感じられる(当局の喜びそうな)説教臭い作品は、さすがに現代になって読むと鬱陶しい。まぁ全体的にやや 理想論を説くような傾向はあるのですがね。
 意外だったのは表題作でもある「ひとごろし」が既に映画化されていたというコトです。しかも主演が松田優作…最初は意外に思いましたが、 改めて思うに凄い演技をしてるんじゃないかと観たくてたまらなくなっています。
『酔いどれ次郎八』
新潮文庫
平成20年10月2日読了
 試行錯誤時代の…と言うだけあって、成る程イチイマな感じの作品が多かったですね。珍しい現代小説なんて別に 山周である必要が無いくらいの凡作で、こんなのまで掘りおこされてはたまらんだろうなぁ。
 それでも後に代表作に数えられていそうな作品の、祖形のような出来も散見します。故に山周好きなら読んでもそれ程に 腹も立たないのではないでしょうか?
 最初に手に取ったのがコレだとしたら、お気の毒としか言い様が無いんですけどね。
 個人的には一番完成度が高く感じられた「与茂七の帰藩」をタイトルにして欲しかったのですが。


結城昌治
『裏切りの明日』
『エリ子、十六歳の夏』
『風の報酬』
『偽名』
『怖い話と短い話』
『白昼堂々』
『真夜中の男』
『夜の終る時』
『裏切りの明日』
光文社文庫
平成24年2月10日読了
 ハードボイルドとはこうだ、という作品。少なくとも僕の思うハードボイルドとはコレです。
 氏の悪徳刑事モノとなると『夜が終わる時』が有りますが、本作は更にザラリとしており苦い。セットとロケの差異かしらん。
 粗筋だけ紹介するとバンカーやウィルフォードに似てしまいそうですが、まるで違うのは作家の個性というモノでしょう。
 唯一惜しく感じたのは主人公沢井の最後の行動がそれまでに比べ短絡的に思えるコトで、きっかけであるトシ子への思いが もう少し語られていればと残念。僕の読解力もありましょうが。
 下げ方もスラリと見事で、粋だねぇ…というと違うかな?
『エリ子、十六歳の夏』
新潮文庫
平成23年11月10日読了
 作品の舞台となった場所にやたらと馴染みが有り、刊行された昭和63年も思い描き易い時期である、とアレコレ思い出しつつ一気に読んだ。家出した孫娘を 探す元刑事が、その都度出くわす殺人事件を解決する…というのが大雑把な筋だが、事件そのものが新聞記事にありそうな“リアル”なもので更にテンポが 良く惹きつけて離さない。
 とにかく誰かにお勧めしたいが、ある程度以上の年代でないと面白さは割り引かれるのではないかしらと残念にも思われる…杞憂かもしれないが、僕自身が 発表当時に読んでいたらどうだったか。今ならオッサンだし娘も居ますからね。
 作品が完結してかなりの月日が経っている(僕の読了は23年後だ)からか、その後の彼らを想像してしまうのも、作品にハマった証しだろう。最後まで顔を 見せてくれないエリ子ももう39歳か40歳である。あれから両親との関係はどうなったのか、今頃は親の跡を継ぎ美容院を経営しているのだろうか? もう子供もいるのかもしれない…と思うと街ですれ違う女性に面影を探してしまいそうだ。
 また一番興味深いキャラクターであるキティはどうしたろう?モデルとしてそれなりになったのかもしれないし、もしかしたら玉の輿に乗っているかも しれない。逞しくバーなぞ経営してそうだが。
 その後にバブルが弾けてといろいろ有るが彼らが皆、今は小説にならないような平穏無事な生活をしているように願いたくなる。
『風の報酬』
角川文庫
平成23年11月7日読了
 アレコレと楽しい作品集。冒頭の「六年目の真実」はまさに意外な結末で、ありゃそう来るのかと黒い笑いに包まれました。
 うつろな不安定感というか怖くなるのは「十年の後に」と「虚ろな目」なのですが、どちらがより怖いのか…他人事ではあるのですが、 妙に身近と言うか。いやどちらも怖いんですが、より安定感に欠ける後者の方が怖いかなぁ。
『偽名』
新潮文庫
平成23年10月7日読了
 どり作品も切れ味が良く短編としてもテンポ良く面白い。いや著者の名前だけで勝っても損は有りません。お勧めです。描写も過不足無く まさに文体としてのハードボイルドとはコレではないか…と言いたいけどハードボイルドと言う言葉の定義に拘りが無いのでその辺りはムニャムニャ。 いずれにせよ読後に大人の気分が味わえます。
 何篇かは太平洋戦争がポイントになっていますので昭和な感じでしょうが、時代背景がキチンと描かれているので教科書でしか当時を知らない 世代でも充分に浸れます。かくいう僕がそうですし。
 それにしても女のキャラクターが上手いなぁと。したたかと言うかタフと言うか、とにかくシッカリしています。説得力が有ると言いますかね。うん。
『怖い話と短い話』
中公文庫
平成23年2月27日読了
 タイトルには少々疑問が有るが、それにしても手堅く面白い。大人の読み物として最適では有るまいか。例えば途中でオチが見えるとか 今の感覚からすると展開が遅く感じられるものも有ろうが、作品の“太さ”にはそれを補って余りある。太さの説明はし辛いが。
 鈍行列車の長旅に連れて行くなんて風情だなぁと思いつつ読んだのだが…なんか死語っぽいかな。
『白昼堂々』
光文社文庫
平成23年11月19日読了
 文庫裏表紙にある程に陽気でも軽妙諧ギャクでもなかったし、期待してきたようにスラップスティックではなかった…のも当然か?(過去に映画化されており、 キャストを見るとコチラは…と思いますが)
 作者にしてはハードではなく、眉間の皺が無い点でシリアスではないというコトなんでしょうね。
 太極図のように悪漢にも正論があり、正義の側も少しの違いで追われる立場になっていただろう、というのは変わらぬ作者の味わいでしょう。 今回もまた然りです。
『真夜中の男』
光文社文庫
平成22年8月23日読了
 渋いね、大人向けだ…と思いつつ読了。昔の小説にはこういうのが多かったのだろう、と思うモノの考えたら最近のは読んでいないんですけどね。
 なによりも終わったようで終わっていないラストが良い。主人公の気分に完全にどうかしたような、なんとも言えない雰囲気でエンドロールとテーマ曲が 欲しいところでした(根は映画好きなんで)。
 個人的にはもう少ししっとりとしていても良いかと思いましたが。
『夜の終る時』
日本推理作家協会賞受賞作品集17
双葉文庫
平成19年7月6日読了
 かなり久し振りに再読したが面白かった。粗筋や結末を知っていて再読に耐え、更に面白いのだからミステリーとしては 極上の出来なのではないか?
 初見の楽しみを奪わないように書くのが難しいが、とにかく構成が見事でサゲまでが粋。所謂“謎解き部分”で間延びしない のは普段ロクにミステリーを読まない人間には嬉しいサービス。また警察という組織やそのなかの人間模様をを描くという 点では娯楽に徹している所為か厚みに欠けるがペラペラではない。
 特にラストの女への思いは泣かせられます。


吉岡忍
『墜落の夏』
『墜落の夏日航123便事故全記録
新潮文庫
平成20年5月30日読了
 副題の内容を期待すると正直裏切られます、僕もまたその一人ですが。
 事故の発端から経過、そしてその後の出来事などについて書かれているのかと期待したのですが、むしろ著者の関心は 事故を取り巻く社会状況の象徴として捉える方向に進んでいる様子でした。ただそれには事故後1年程度ではまだ 時期尚早だったのではないか知らん?
 もっともつぶさに事実を調べ上げるにしても1年では不足でしようが。
 ただ僕の期待や嗜好と違うというだけで面白い本だとは思いました。
【関連作品】
山崎豊子 『沈まぬ太陽』
本書で扱った日航123便事故をネタにしていますが…酷い出来でした。
吉川英治
『貝殻一平』
『貝殻一平』
大衆文学館講談社
平成23年7月26日読了
 設定に惹かれて読んだがナンヂャコレハ?最後はヤケクソなんじゃないかと思われるほどで、こんなんで良いのかと。
 新撰組に追われる浪人とのんびり屋(というよりボンクラに思えますが)の中間がそっくりなコトから物語は二転三転、幕末の動乱に 加えてアレやコレやのネタのテンコ盛りですが全部がバラバラです。考えも無しにつぎ込んだようにすら思え、書いちゃったのは 仕方ないとしても再刊する価値が有ったのかしらん…と疑問です。読んだけどね。
吉村昭
『海軍乙事件』
『鯨の絵巻』
『三陸海岸大津波』
『彰義隊』
『背中の勲章』
『見えない橋』
『落日の宴』
『海軍乙事件』
文春文庫
平成20年12月10日読了
 作者を僕の大好きであり扱っているテーマも興味深いものなのに、どうして面白くなかったのか?と首を捻りつつ 読み終えました。
 判らんなぁ?
 なんか切れ味が鈍っている気がするのですが、気のせいでしょうか?本来ならば長編になる筈が、史料やらナニやらが不足して 短編に流されたような気がしなくもありません。映画で言ったら“Making of…”のような扱いになるのではないかと。
 更に蛇足を言うと大きめの活字は似合わないような気がします。
 勝手なイメージですが、蝋燭の薄明かりの中でかすれ気味の声で淡々と、しかし目は瞬きをせず脳みその皺を数えそうな鋭さで コチラを見据え、事実のみを語るような雰囲気が氏の作品に迫力を与えていると思います。それに合うのはチと前のような文字の 大きさと数ではないでしょうか?
 そういえば鴎外(←なんだこの字?)の『舞姫』も父親の持っていた全集で、旧仮名遣いの旧漢字で読んだ方が味わいが有った ように思います。…そう言いつつ古典は読めず、海外小説は翻訳に頼りきりなのですが。
『鯨の絵巻』
新潮文庫
平成23年9月11日読了
 氏の作品、こと歴史小説に関しては長い道をジリジリと這うような描写が好ましく長いほど良いと思っていますが、創作の短編も 素晴らしいのだなぁとウットリしました。もっとも創作と言っても舞台となった世界をかなり下調べをしたであろう作品ばかりですが。
 明治以降に近代化されていく鯨漁、錦鯉の養殖、奄美大島におけるハブ漁、更に蛙量まで…と、いずれも僕には馴染みの無い世界なので とにかく惹きつけられました。そして読み進むうちに登場人物たちの心情も身近になって行きます。
 どれも決して饒舌な作品ではないのですが、登場人物の顔に刻みこまれた皺の一つ一つが実に雄弁で、小説を読む楽しさに酔いました。
『三陸海岸大津波』
文春文庫
平成23年7月12日読了
 今年(平成23年)3月の大震災を考えると、本書の将来に淡いながらも期待を持たせてくれる結末は甘かったのではないか、と残念でならない。 自然の猛威は防ぎきれないとはいえ、もう少しナニか出来たのではないかと後知恵ながらも苦々しく思います…そうは言ってもなぁ。
 ちなみに本書は明治29年、昭和8年、同35年の大津波を扱っています。それらの貴重な記録であるのは確かなのですが、作者にとっても生々し 過ぎるのか読み物としては期待していた迫力のようなものは有りません。娯楽を求めてはいけないのでしょうが。
 解説も含めて200ページに満たない紙数では作者の本領が発揮されないようにも思われました。
『彰義隊』
新潮文庫
平成21年8月30日読了
 あぁ脂が落ちてるなぁ衰えたのかなぁ…と作品としては寂しく読みました。ミシミシと迫ってくる圧力が感じられなくて残念。
 ソレはソレとして非常に楽しかったのは馴染みのある地名がゾロゾロ出て来たコトでした。
 寛永寺から落ち延びようとする宮が上野の北に隠れ移動するのは当然で、その辺りチョロチョロしただけでしたが、驚いたのは ソレからです。
 匿われた先の一つに市谷の自証院という名前が出てきたのですが、なんと僕の卒業した専門学校の直ぐ近くでした。そういえば 講義をサボってうろうろしていた辺りにお寺のような庵のような建物が有ったような?と後日ついでが有ったので確認に行って しまいました。
 また台湾で薨去された宮が帰国したのが須崎港だそうですが、会社員時代に研修で上陸したコトが有るんですよね。もちろん同じ 港の筈も無いのですが、それでもああアソコか、と感慨深いものが有りました。
 大人になるとこういう楽しみ方もあるんだなぁと。
『背中の勲章』
新潮文庫
平成20年1月12日読了
 第二次大戦中を捕虜で過ごしたヒトの話なのですが、知らないコトばかりでした。大戦初期の下手すりゃ 開戦前からカミカゼな偵察隊が有ったとか、米国本土での虜囚生活の様子とかフムフムと。
 ただ主人公に直で取材をしている所為か遠慮が感じられなくも無くちょっと食い足りない気がしました。 どういう風に抉って欲しいかと言われると困るんですけど。
 もっとも思い出話として聞くと印象深いエピソードが多々有るんですけど。
 しかし一概には比べられないでしょうが、ソヴィエトによるシベリア抑留とはスゴい違いだなぁ…。
『見えない橋』
文春文庫
平成20年4月15日読了
 悪くはないのですがどうしても作者は長編歴史小説の…という先入観がある為、多少食い足りないかなぁと。
 ただ面白かったのはシーンの途中で切れているような、一応話は終わったもののまだ浮遊しているような印象を 残す終わり方です。
 こう書くと中途半端な印象をもたれるかと思いますが、そうでは有りません。
 なんとなく自分も登場人物の一人になり、少なくとも話の傍観者としてその場に居た感じになりました。そして 終わったのでその場を去る…というような。なんか妙な感じでした。
『落日の宴勘定奉行川路聖謨
吉村昭
講談社文庫
平成20年3月12日読了
 ザドルノフ『北から来た黒船』の日本側からの視点が欲しくて同時期に読み始めましたが、テンポが違い先に読了しました。 比較は後日ザドルノフの感想で触れるコトとして、今回は単品として感想をば。
 著者のファンとしては言いたくはないのですが、ほかの歴史小説とはコクが無い感じで残念至極。『長英逃亡』のような 緊迫感溢れる外交交渉を期待していたのですが、それ程でも有りませんでした。もっとも期待し過ぎなのかもしれませんが。
 ただぼ幕吏として時代に準じた人生には畏敬の念を感じてなりません。決して人材が居なかった訳ではないのだな、と 認識を新たにしました。十五代将軍慶喜に対する思いの変転など興味深いし。
 大人になってからもう一度勉強すると楽しいかもしれませんね、歴史って。もちろんそれなりの史料を得てこそですが。